単行本『居合道上達講座』(大下政一著)を刊行しました

出版物

 左文右武堂出版物の第3弾として『居合道上達講座』を刊行しました。

 居合道全国選抜八段戦箱根大会優勝の経歴と、国内外での豊富な指導実績を持つ大下政一教士八段の著書です。『居合道虎の巻』の取材で大下教士と出会い、とくに全剣連居合について、説明の言葉が実に細かく明確であり、よくない例についても身をもって示すことのできる指導力に触れ、本書の制作をお願いしました。

 本書はB5判の大判に、全剣連居合十二本の正面側面2方向からの詳細な連続写真、ポイント写真、悪い例など1100点余の写真を収録、目で見てわかる居合道上達の道しるべとなっています。それに加え、古流居合への取り組み方、日本刀の知識など、居合道を実践する人に知ってほしい情報を満載しています。

 なお、全剣連居合道部で新たに「留意点」が定められるという情報がありますが、本書発売の2023年2月時点で公式には未発表であり、本書は著者がこれまで長く修業してきた全剣連居合についての解説とし、「留意点」は考慮しておりません。

 本書はamazonでお買い求め下さい。一般書店では販売していません。

 さて、関連して私の(編集者としての)居合道との関わりと、とらえ方を述べておきたいと思います。

 剣道を愛好している人で、居合道には興味のないという方は多いでしょう。それは全然それでいいと思っています。剣道は竹刀を使った競技で、勝敗を決めるものです。とくに若い世代の実態は勝つことが目的になり、勝つための技を工夫し、磨くものになっています。それは競技である以上当然のことです。そしてある程度の年齢になると、昇段が目標になることがほとんどだと思います。

 居合道にも試合があって勝敗がつき、段位審査もあります。試合での勝利や昇段が目標になるという点では剣道と同じです。しかし、一目瞭然ですが剣道とは大きな違いがあります。実際に日本刀(模擬刀であっても)を使うということです。剣道は「剣の理法の修錬」とされていますが、実際に遣っているのは竹刀であり、その技術を追求していくのは当たり前です。剣(日本刀)を握ったことさえない剣道愛好者は多いでしょう。

 もちろん刀を使った真剣な命のやり取りに憧れ、あるいは映画やテレビの時代劇におけるチャンバラを見て憧れて剣道を始める人もいるでしょう。海外の愛好者はそういう人が多くを占めているようです。しかし我が国においては、剣道が実際に日本刀を使わないこと、あるいは直接的に日本刀のイメージに結びつかないことが、とくに女性や子どもの剣道人口を増やしたという側面もあるのではないかと私は思っています。実際に刀で人を切りたい、人を切る技術を身につけたいと思う人はいないでしょうから。

 そこで前者の、命をかけた真剣勝負や時代劇に憧れる人たちの受け皿として、居合道の存在価値があります。何と言っても実際に日本刀を握って振ることができるのですから。それはもともと人を切る技術なのですが、もちろん実際に人を切りたいわけではないでしょう。自ら実践しているわけではないので多くは書きませんが、居合道は日本刀という武器を通して自分の体や心と向き合う、きわめて個人的で、静的な武道であり、知的な面白さがある奥の深い武道だと感じています。これからの時代、居合道が海外も含めて人口を増やしていける可能性は剣道より高いと思っています。

 剣居一体という言葉があります。剣道愛好者が本当に「剣の理法」を学んでいるというならやはり日本刀に触れなくてはならないでしょう。逆に居合をする人にとっても実際に敵がいる剣道は大いに役立つでしょう。

 でも、実際に居合道の現場を取材してみると、最初に剣道をしていて居合も並行してするようになった人や、剣道から転向して居合に専念するようになった人も一定数いるのですが、剣道未経験で居合に興味を持って居合だけをしている人がとても多いことに気づきました。つまり剣道愛好者と居合道愛好者は一部だけダブっていますが、大部分は別な人たちであることが分かりました。私の印象ですが、剣道は体育会系、居合はやや文化系で、ちょっと人の層が違うとも感じました。

 1980年代後半から90年代にかけて、私が在籍していた月刊誌『剣道日本』では居合の記事を増やしていました。居合道をする人も読者に取り込もうと考えたからです。でもその記事は居合道に興味のない剣道愛好者にとっては読まない無駄なページだったでしょう。一方居合道だけをしている人には大部分を占める剣道の記事は興味がないページでしょう。だから別の本にすべきだという思いから企画したのが『居合道虎の巻』という独立した出版物(ムック)でした。

 2008年に『剣道日本』を発行しているスキージャーナル社から最初の『居合道虎の巻』を刊行したところ、当時の月刊『剣道日本』の発行部数の半分以上の売上を記録しました。それで手応えを得て第4弾まで刊行しましたが、2017年にスキージャーナル社が倒産してしまいます。

 その後支援してくれる方々と出会い、(一社)日本武道出版から『居合道虎の巻2018』『居合道虎の巻2020』を刊行することができました。現在『2023』の編集作業を行っています。

 最後に……数年前に居合道八段審査をめぐる金銭のやり取りがあったことが表面化して、それ以来高段位の審査が全剣連居合だけになっていますが、それは居合の本質をまったく理解していない人による措置であり、居合道の価値を自ら放棄する行為であると断言しておきたいと思います。一刻も早く古流の審査を復活させるべきです。

『全日本剣道連盟居合(解説)』の序文には、全剣連居合は剣道家に刀の扱い方を知ってもらうために作ったものであるとはっきり書いてあります。刀を知らない人のための「入門としては充分」と明記されています。入門用の居合だけで最高段位の八段が取れてしまうのは、どう考えても間違っています。

『居合道虎の巻2018』の編集後記に書いた文章を、以下に引用しておきます。

「私の一番の願いは、古流居合の灯を消さないで欲しいということである。武士たちが実際に遣った、あるいは実際の戦いでは遣っていない技であるとしても彼らが創意工夫を重ねた技がこの時代まで連綿と伝えられてきて、それを現代の人たちが学び、後世に伝えようとしている。それは奇跡に近いことであり、日本人の凄さであると思う。(中略)だからこそ世界中の人が居合や剣道を学びたいと思うのである。もちろん昭和になって編まれた古流もあれば、昔の姿とは変わってきている古流もある。大江正路や中山博道だって、昔からの技をその時代の感覚で整理したのであり、その意味では古流をもとにつくった全剣連居合と同じかもしれない。それでも、刀を使わなくなって100年が経って生まれた全剣連居合だけになり、人々が試合に勝つことと昇段することだけを目的として取り組むなら、それは居合のアイデンティティの崩壊であり、居合である必要がないと私は思う」

 「居合道虎の巻2023」の取材では、ここ10年ほどでさらに居合が全剣連居合中心になってきた、という声も聞かれました。その傾向がさらに強まれば、居合は存続の危機に瀕するでしょう。

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