2026年3月、野球の第6回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本は準々決勝敗退という結果に終わった。Netflixを契約して見るほど熱心ではないが、小学生のときは放課後や休日に空き地に集まって野球をしていた世代なので、それなりに興味を持ってテレビやネットのニュースはチェックしていた。
私はこの大会を見るたびに、大会運営の仕方にちょっと驚く。すべてアメリカの都合が優先されていて、勝手というか、やり放題だ。でもその一方で、剣道の国際大会はこのWBCを少しは参考にしてもいいのではないかと思ったりもする。
まず大会主催者がMLB(メジャー・リーグ・ベースボール)とその選手会であることに違和感がある。MLBとはアメリカ国内のプロ野球リーグを運営する組織だ。剣道に例えれば全日本剣道連盟が世界剣道選手権大会を主催していることになる。他のほとんどのスポーツは国際連盟が世界選手権やワールドカップと呼ばれる大会を主催しているし、剣道の場合も国際剣道連盟(FIK)の主催である。
野球には世界野球ソフトボール連盟という組織があるが、同連盟は第3回大会からWBCを世界一決定戦として公認している。その後、中間年には同連盟主催の「WBSCプレミア12」という大会が行われるようになったが、MLB所属選手は出場せずWBCほどは盛り上がっていない。
そして会場。今大会を例に取ると、一次ラウンドは日本、プエルトリコ、アメリカ国内2箇所の計4箇所に分かれて行い、準々決勝以上はアメリカで行った。主催者がMLBとその選手会である限り、これからも上位の試合はアメリカで行われるだろう。そしてこれまで一次ラウンドの日本が属するリーグの会場は毎回日本である。日本企業が多数スポンサーになっているし、日本ラウンドの主催者が読売新聞社だからだ(一球団の親会社が主催者というのも引っかかるが、それはさておき)。収益性つまり金の問題だ。
組み合わせも抽選ではなく主催者が決めている。一次ラウンドで日本は毎回韓国や台湾、オーストラリアなど同じ顔ぶれと試合をしている。収益性などを考慮して決めているらしい。予選ラウンドの結果がどうあれ、日本とアメリカは決勝まで対戦しないことになっていたそうだが、それも収益性の都合なのだろう。
2013年の第3回大会の前に、収益の配分を巡って日本の選手会がボイコットを検討していたことは記憶の片隅にあったが、今回調べてみたらそもそも第1回大会の打診があった際に、収益配分や開催時期を巡ってNPB(日本野球機構)も選手会も一度は不参加を決めたそうだ。それに対しアメリカ側は、不参加は「日本の国際的な孤立を招くだろう」と警告、最終的に参加が決まった。なかなか露骨な脅しである。
今回大会ではご存知の通り、日本のテレビ局が交渉する余地もなく、Netflixが放映権を独占してしまったという出来事もあった。ルールについてもピッチクロックの導入などMLBの新しいルールがそのまま採用されており、参加国と相談して導入したわけではない。
MLBが最高峰という状況は揺るがない
この記事を書いている3月16日、準決勝でアメリカがドミニカ共和国に勝った。日本は第1回、第2回、第5回大会で優勝、野球の祖国であるアメリカは第4回大会に優勝したのみ、第3回大会優勝はドミニカだ。第6回大会でアメリカが優勝しても2回目であり、日本が最多優勝国であることは変わらない。
しかし、だからといってアメリカのMLBが世界一のリーグという評価はまったく揺るがない。日本のプロ野球で好成績を残した選手が続々とMLBに挑戦するという風潮も変わらない。日本のプロ野球よりもアメリカで活躍することを目標にする高校生以下の日本選手も現れている。中南米など世界中の有力選手がMLBで活躍しワールドシリーズで勝つことを目指している。
過去3度日本が優勝できたのはアメリカがベストメンバーでチームを組んでいなかったからだ、という評価がある。第5回大会は最強メンバーとも言われたが、ピッチャーの先発陣はそうではなかったという指摘もある。少なくとも第3回大会までは、アメリカが絶対に勝つという信念を共有して戦っているようには、私には見えなかった。
今回も一次ラウンド最終戦のイタリア戦を前にして、アメリカの監督がもう勝ち抜けが決まっていると勘違いしていたという珍事があった。イタリアには敗れたもののイタリアが次戦でメキシコに勝って事なきを得たが、真剣度が疑われる出来事だった。所属チームとの契約で大会途中で代表チームを離れる選手もいた。もちろん試合では勝利を目指して真剣に戦っていると思うし、優勝するかも知れないが、少なくともアメリカ人選手にとってはこの後のレギュラーシーズンの方が大切であるように見える。
このような運営方法がフェアではないと指摘する声は、今回日本が早期に敗退した負け惜しみというわけではなく、以前から、どちらかというと優遇されてきた日本国内でも聞かれたし、私もずっとそう思ってきた。韓国のメディアからの日本優遇という指摘もあった。あまりにもアメリカの都合や収益性を優先しすぎて公平なチャンピオンシップではない、MLBによる一つの「興行」に過ぎない、という指摘はその通りだと思う。
それでも、見方を変えればアメリカのやり方はなかなか巧妙だとも思う。いくら他の国が優勝しても、アメリカが野球のメッカであり続け、イニシアチブを握っていられるように考えられている。野球の祖国であり、No.1の地位は他国には絶対に渡さないという気概、プライドのようなものさえ感じる。そのためには公平性などどうでもいいのだろう。
あるいは単純にアメリカが世界の中心だと思っているだけかも知れない。国内リーグのNo.1を決める試合をワールドシリーズと称している国だ。アメリカという国そのもの、とくに現在のトランプ大統領の外交、世界への向き合い方とかぶって見えたりもする。
それでも、そんな独善的なやり方でも大会は続いており、日本では第1回から注目度は高かったが、アメリカでも回を追うごとに人気も高まっているようだ。前述のように過去にはボイコットの動きもあったが、現状では日本も他の国々も、不満があっても経済力の差もあって覆しようがなく、最初から抵抗する気などなさそうである。3回も優勝した最強国なのだから日本のプロ野球をMLBと競い合うようなリーグに育てよう、という気概もまったく感じられない。
あるいは、アメリカは野球の祖国であり絶対的な王者であると認め、リスペクトしているのだろうか。
剣道の国際大会はずっと日本開催でもいいのでは
剣道における日本の立場は、野球におけるアメリカの立場と同じだろう。WBCほど強引なことをすべきとは言わないが、恒久的に日本を開催地とするような剣道の国際大会があってもいいのではないか。WBCよりはゴルフやテニスの全英オープン、マスターズといった大会がより参考になるモデルだろう。それが20年以上前からの私の持論である。
日本人はアメリカ人ほど、自己主張が強くなく、控えめなのだろう。それは美徳かもしれない。
しかし……オリンピックをはじめとする柔道の国際大会のたびに、海外の柔道選手を指して「あれは柔道ではなくJUDOだ」「武道ではなくスポーツになってしまった」という批判が耳に入ってくる。とくに剣道関係者からは「オリンピック種目にすれば柔道のようになってしまう。だからオリンピックを目指さない」という意見がよく聞かれる。柔道は最初の東京オリンピック(昭和39年)から採用され、還暦を超えてそうなっている。国際的なスポーツへと舵を切ったのだから、私は現状を否定しようと思わないが。
だが、現在の世界剣道選手権大会の、持ち回り開催でトーナメントで1位、2位、3位を決めるという、参加国すべてを平等、公平に扱うやり方はオリンピックと同じである。KENDOではなく、剣道の姿を変えずに世界に普及したいのであれば、オリンピック同様のやり方では無理だと柔道が教えてくれている、ととらえるべきだろう。別な方法をとる必要がある。アメリカのWBCのやり方に全面的に賛成はしないが、その精神、プライド、実行力には学ぶところがあるのではないだろうか。
国際剣道連盟が創立され、第1回世界剣道選手権大会が開かれたのは昭和45年(1970)だ。その構想段階では昭和39年の東京オリンピックの高揚感がまだ残っていただろうし、国際大会のあり方としてそれ以外の選択肢はなかったのだろう。その時点では無理もなかったとは思うのだが……(テニスの全英オープンには戦前から日本人選手も参加しており、大正9年に清水善造選手が実質3位に入賞したという歴史もあるとはいえ)。
WBCが開かれるようになり、とくに前回大会の大谷翔平選手の活躍で、これまで野球に興味のなかった人もファンとして引き込んだことは確かだ。私の知人では80代の男性、70代の女性がそれまでまったく野球に興味がなかったのに、前回大会以降、MLBの大谷選手出場試合を毎日のように観るようになったそうだ。そういう意味では世界大会の運営方法がフェアであるかどうかなんてどうでもいいのかも知れない(それでも日本の野球人口は減少しているそうだから、また別に考えるべき要素があるとしても)。
戦前、たとえば昭和7年(1932)には全国の中等学校(男子)における剣道部の設置率は95%を超えており、75%程度の野球を大きく上回っていた。陸上競技と庭球も90%を超えているが剣道よりは少ない(一橋大学の鈴木楓太さんの論文「戦時期のスポーツとジェンダー─文部省の『重点主義』政策の検討を中心に─」の中で紹介されている)。つまりあらゆる運動競技の中で剣道が一番人気があったといってもいいだろう。
この100年、剣道の試合のやり方、見せ方、国際大会のやり方などをはじめ、普及の仕方をもっと突き詰めて考えてきていれば、今も人気No.1を争う種目であり続けている可能性があったと私は真面目に思っている。今さら遅いかも知れないけど、現状のまま続けていくだけでは、剣道人気は落ち込んでいくばかりだろう。
2026年3月16日記

