異例の形で行なわれた全日本(男女)剣道選手権。この“暫定ルール”を“恒例”にしてはどうか

観の目見の目

 2021年3月14日、第68回全日本剣道選手権大会、第59回全日本女子剣道選手権大会が長野市のホワイトリングで開催された。新型コロナウィルス感染拡大の影響で延期され、異例の形での開催となった。

 剣道に関わって35年あまり、全日本選手権を初めて現場でなくテレビ観戦した。BSではあったが4時間も放映してくれたので、じっくりと楽しめた。

 一番感じたのは、「暫定ルール、いいじゃないか」ということである。新型コロナウィルス感染防止のために、つばぜり合いは基本的になし、つばぜり合いになった瞬間のひき技は認めるが……というルールによって、つばぜり合いに費やす時間が劇的に減った、というかなくなった。テレビで解説していた古川和男範士も言っていた通り、それによって剣道の内容がとても良くなったと思う。

 「ひき技も剣道の一部」という考え方もある。でも「間合を取ったところから打つのが剣道」と考えた方がすっきりするし、醍醐味がある。改めてそう思った。ひき技が得意な剣士は不利になるかも知れないが、それでも中途半端な間合になったところからのひき技、前に出て打ったところから転じてのひき技を一本にしていた選手もいた。それでいいじゃないかと思った。ひき技が少なくなっても、前に出て打つ技がより磨かれ、より多様になる方向に変わっていった方が面白いのではないかと思った。

 単行本『剣道の未来』の中で木寺英史先生が「つばぜり合いになってすぐ出す技はいいが、膠着したつばぜり合いからのひき技は一本にしない」という提案をしているが、まさにその通りのルールで行なった結果である。その効果で一本が決まりやすくなり、ダラダラと延長が続く試合は(テレビを見る限りは)あまりなかったし、男子の決勝は二本勝ち、女子の準決勝はどちらも二本対一本で決まるなど、上位の試合は例年の10分と違って5分だったがとても見応えがあった。

 九州では昨年11月に全九州学生剣道大会を実施している。そこでは、つばぜり合いは2秒までというルールが採用されたと聞いた。今後コロナウィルスがどのように終息していくのかは予想がつかないが、今年(2021年)の夏か秋ぐらいからは大会も再開されていくだろう。そしてしばらくはつばぜり合いに関しては今回の全日本選手権や全九州学生大会のような扱いになるだろう。数年はそれが続くかもしれない。

 願わくばその期間中にぜひ会議の俎上にあげていただき、コロナ終息後もそのルールで行なうよう、ルール改正を検討していただければと思う。新型コロナウィルスの拡大は、室内で至近距離で向かい合い声を張り上げる競技である剣道には、たとえば屋外で行なうスポーツよりも大きなマイナスをもたらした。これからも注意を払って実施しなければならないが、それがもしかしたら逆にルールを改善するきっかけとなり、人気回復のチャンスになる可能性さえあるかもしれない。ピンチをチャンスに変えてほしい。

 全日本選手権に話を戻せば、とくに男子の方を担当したアナウンサーが、一本とならなかった打突について「今のはなぜ一本ではないんですか」「何が足りないんですか」という質問を何度もして、古川範士も「スピードで入って体勢が整っていません」「部位に届いていません」と丁寧に解説していた。あるいは突きが確実に打突部位をとらえていなかったのに一本になったときも、「あそこまで(相手の)体勢が崩れていると完璧に一本ですね」などと説明していた。剣道を知らない人にも、ある程度はこういう打ちが一本なんだなと伝わったのではないだろうか。30数年間現場で取材しており、あまりNHKの番組を見ることはなかったのだが、久々に見ていい実況だなと思った。また、今回はBSで4時間に渡り放映された。BSでいいから4時間枠があれば、1、2回戦も放映できて、ストーリーとして伝わってくる。ぜひ次回以降もそうしていただければと思う。

 スローで見ると打突部位に当たっていないのに一本になった例はあったが、現状では仕方ないという範囲だったとは思う。私自身は、当たっていない一本はビデオ判定で取り消しにするようなシステムを考えるべきだと思っている。また、平均の試合時間も例年よりかなり短かったのではないだろうか。長引かせてはいけないという意識で審判員の旗が軽くなったということでもないのだろうが、このくらいで上げるのが妥当というレベルであり、例年が重すぎるのだと思う。見られなかったから確かなことは分からないが、男子で進行が遅かった片方の会場が例年レベルだったのかもしれない。

 必要以上に一本のレベルを上げることはいいことではないと思う。サッカーで0対0で引き分けても面白い試合はある、という人はいるが、それを面白がれるのはサッカーをよく知ったマニアだけである。やはりポイントが決まる頻度が多い方が、よく知らない多くの人を引きつけやすい。バスケットボールやバレーボール、テニス、卓球など得点機会が非常に多い競技もあって1ポイントの重みは競技によって異なり、ただ多ければ面白いという問題でもないのだが、近年の剣道の現状は一本が決まるまで時間がかかり過ぎだったと思う。

 警察の選手が出場してなかったのはもちろん残念だったが、久々に剣道って面白いなと思わされた大会だった。優勝した松﨑賢士郎選手をはじめ、男子のベスト4はほぼ順当と言っていい結果。松﨑選手は技に重みがあり、本人のコメントも紹介されていた通り2位となった2019年よりも小手技に進化が見られたのが大きかったように思う。女子は準決勝で敗れた竹中美帆選手、小松加奈選手のどちらかが優勝と予想したが、諸岡温子選手の俊敏さ、打ちの強さが勝因という印象だった。

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