剣道人口減少の指標として、高校剣道部員数の推移について『剣道の未来』(2021年刊行)に詳しく書いた。その後の推移について2年前にこのブログでも書いたが、最新の2024年度の数字を紹介したい。
結論から言うと、2024年度(令和6年度)の高校剣道部員数は「下げ止まり」が見られた。
『剣道の未来』執筆時点では得られていなかった高校生総数や、ピーク時(1984年)の正確な剣道部員数も最近わかったので、改めて以下に紹介する。2003年以降の剣道部員数は全国高等学校体育連盟(高体連)がHPで公開している数字である。
年度 剣道部員数 高校生総数
1984年(昭和59) 95,071人 4,891,917人
2003年(平成15) 59,382人 3,809,827人
2019年(令和元) 38,435人 3,168,369人
2022年(令和4) 32,861人 2,956,900人
2023年(令和5) 31,786人 2,918,501人
2024年(令和6) 31,720人 2,906,921人
改めて最も剣道部員数が多かった1984年(昭和59)、及び平成の真ん中である2003年(平成15年)と、昨年(2024年)を比較してみると以下の通りだ。
◎1984年と2024年の比較
剣道部員数 66.6%減
高校生総数 40.6%減
◎2003年と2024年の比較
剣道部員数 46.6%減
高校生総数 23.7%減
昨年の剣道部員数は1984年の3分の1となった。その間に高校生総数は4割減、つまり1984年の6割の人口があるにも関わらず、である。2003年との比較では、高校生人口が減少する倍の速度で剣道部員数が減っていると言えるだろう。全高校生のうち何%が剣道部員だったか計算してみると、1984年は100人中1.94人、2024年は1.09人となっている。
このように、昭和の終わりから平成の中頃と比較して、剣道部員の減り具合を改めて数字にしてみるとため息が出る。だが、最近の数字をもっと短い期間で比較してみると、やや傾向が違ってきた。
◎2019年と2024年の比較
剣道部員数 17.5%減
高校生総数 8.3%減
◎2022年と2024年の比較
剣道部員数 3.4%減
高校生総数 1.7%減
ここまでは割合としてはやはり高校生の数が減る2倍の早さで減っているのだが、2023年と2024年の比較では剣道部員数は66人という微減に留まり、ついにそれが逆転した。高校生数の減る速度より、剣道部員数の減る速度が遅くなったのである。
◎2023年と2024年の比較
剣道部員数 0.2%減
高校生総数 0.4%減
『剣道の未来』で報告した2019年以降、2022年までの3年間で6000人程度、つまり年平均で2000人ほど減っており、そのままではあと1年か2年で3万人を割り込むことが予想されたが、それから2年経って3万人台をキープしている。2020年から22年ぐらいまではやはり新型コロナウイルスの影響が大きかったのだろう。
2003年から2019年の間に、部員数が増えていた卓球、バドミントンなども2019年以降、つまり令和になってからの5年間は減少に転じている。やはりコロナの影響があったと思われる。その中にあって、弓道だけが僅かながら人口を増やし続けているのはすごい。
2019年 2024年
卓球 76,510人→61,308人
バドミントン 121,728人→115,520人
弓道 62,278人→64,025人
中学生の剣道人口は?
もちろんまだ1年だけのことで揺らぎはあるだろうから、来年はもっと大きく減るかも知れない。まったく予断は許さないのだが、止まったと仮定してその要因は何だろうか。
正直言って分からないのだが、一つだけ思い当たったのが、中学生の剣道をめぐる状況の変化である。周知の通り中学校の部活動を地域に移行する動きが2023年度から始まっている。調べてみると地域によって進行具合はバラバラのようで、当初は25年度末までの3年間でおおむね達成することになっていたが、そこまでは進んでいないようだ。しかし中には2026年度にはすべての部活の地域移行が完了するという自治体もある。
剣道の場合、すでに道場や剣友会が全国にあり、中学生になっても部活と並行して通っている例も少なくないので、地域移行が比較的しやすい種目なのではないかと思う。中には市の剣道連盟が「中学部」を立ち上げて活動を始めたという例もネット上でニュースになっていた。
一昨年から昨年にかけて道場の少年指導者に取材する機会があったのだが、近年剣道部のある中学校が減っているという指摘があった。たとえば東京都中野区では公立の中学校が10校あるうち、剣道部があるのは2校だけだという。神奈川県厚木市では13校の中学校のうち、かつては6校に剣道部があったのだが、2023年度から0になってしまったそうだ。
しかし、外部移行が上手く進んで、さらにその一環として市の剣道連盟が中学部を作るというような活動が広がっていけば、これまで中学の剣道部で活動していた生徒たちに加え、剣道部がなくて続けられなかった子どもたちも続けられる環境になるのではないか。
すでに2024年の全国中学校剣道大会では、女子団体の部に3つの地域クラブ(夢想塾、豊中クラブ、若草スポーツ少年団)が出場していた。個人戦にも男女ともに数人が地域クラブ所属で出場していた。もしかすると、すでに剣道ではそういう地域移行が進んでいて、中学生の剣道人口が先に下げ止まりしているのではないか。
そんな期待を持って、日本中学校体育連盟(中体連)が公表している全国の中学生剣道部員数のデータも上記の高校生と同じ年度について調べてみた。以下の通りである(1984年のデータは得られなかった)。
2003年(平成15) 122,526人
2019年(令和元) 77,458人
2022年(令和4) 72,322人
2023年(令和6) 68,026人
2024年(令和6) 63,481人
2003年と2024年の比較では48.2%の減少で、高校生よりも大きく減っている。それはともかくとして、ここ数年の状況は、2019年と2024年の比較では18.1%の減少で高校生とほぼ変わらない。しかし2023年と24年の比較では6.7%の減少で、高校生よりもかなり大きく減っていた。
というわけで私の期待は見当違いだった。つまり来年度以降も当面のところ高校剣道部員数は減っていく可能性が高い。
知り合いの元中学校剣道部顧問だった方に話を聞いてみると「地方ではまだまだ地域移行は進んでいません。指導できる人がいないので」という答えが帰ってきた。
しかし、もしかしたら地域移行を中学剣道人口を増やすチャンスに変えることができるのではないか、という思いは消えない。というより、地域移行がうまくできるかどうかが、今後の中高生の剣道人口を左右するのではないかと思う。もしかすると人口を増やすラストチャンスかも知れない。
各地の剣道連盟と中学校の連携は取れているのだろうか。仕組みづくりは進んでいるのだろうか。もし取材ができる立場なら取材に歩きたいところだが、現在は残念ながらそういう境遇にはない。
2025年1月23日記