左文右武堂の単行本第二弾として、『新陰流の極意』を刊行しました。
『剣道の未来』に続く第二弾としてはやや畑違いに感じるかも知れませんが、古流剣術や居合は、これからの剣道の発展のためにカギとなる重要なものだと私は思っています。日本刀が戦闘にはまったく役に立たず社会の中で使えば凶器となる時代になっても、それを扱う技術を連綿と伝えてきた日本人、そしてそれを21世紀になっても学ぼうとする人たちがいること、さらには世界中にそれを教わりたいという人がいることは、奇跡だと思います。
とくに海外の剣士たちの古流剣術や居合への興味は旺盛です。日本では竹刀による剣道をしていても、古流剣術や居合には興味がないという方も多いですが(それが一概に悪いというわけではないですが)、海外の剣士は大人になってから日本刀での切り合いに興味を持って剣道を始める人が多いこともあり、剣道と居合は両方やって当たり前という感覚だとも聞きます。古流剣術は全日本剣道連盟の外の団体でそれぞれ実践されていますが、日本古武道演武大会などを見ると外国人が演武する姿も増えています。実数は分かりませんが、古流剣術または居合を実践する人口は、日本よりも海外の方が多いという時代が、すぐそこまで(あるいはすでに)来ているのではないでしょうか。
剣道が剣の理法の修錬であるなら、もっと古流剣術を大切にするべきです。竹刀による剣道で試合に勝つ技術、あるいは理想とされる(つまり昇段につながる)剣道は、やはり日本刀の操法とはかなり違いがあります。別記事「剣道はもっと形を大切にすべきではないだろうか」で詳しく書いていますが、柔道の昇段審査では投の形、固の形、柔の形など、段位ごとに別な形の審査があり、八段になるまでには100本以上の技を演武して合格しなければなりません。それに対し剣道は日本剣道形の10本だけです。古流剣術を取り入れ、四段は柳生新陰流五本、五段は小野派一刀流五本といった具合にさまざまな形ができなければ昇段できないようなシステムにするのが理想だと私は真面目に思っています。
今の流れでは日本の剣道人口はまだまだ減っていくでしょう。しかしそうやって古流剣術や居合に精通した剣道家を作っていけば、世界中のより多くの人が日本の剣道を求めるようになり、世界的なレベルでは今以上に繁栄していく可能性があると思うからです。
以上は現代剣道を愛好する方々への説明でした。そうではなく新陰流、古流剣術、赤羽根龍夫氏への興味を持って本書を手にしていただく読者も多くいらっしゃると思います。
著者である赤羽根龍夫氏とはある武道家を通じて知り合い、2007年にスキージャーナル社から『柳生新陰流を学ぶ』を刊行、以来継続的に数冊の著書を刊行させていただくとともに、『剣道日本』にも何度かご登場いただきました。古流剣術は知らない人が演武を見てもなかなか理合も分かりにくいし、そういう説明がされる機会も少ない中、理論的に古流を解き明かしてみせてくれる稀有な存在であると感じています。
赤羽根氏は名古屋・春風館道場で柳生新陰流を加藤伊三男館長に学び、春風館関東支部を主宰しています。江戸時代最後の尾張柳生師範であった柳生厳周から神戸金七を経て、江戸時代そのままの柳生新陰流の技が加藤館長に伝わりました(加藤館長は令和4年5月逝去)。
本書では新陰流を創始した上泉伊勢守信綱に始まり、柳生石舟斎宗厳以降柳生家代々に受け継がれた柳生新陰流の歴史を分かりやすく説くことから始まり、加藤館長のインタビューなどにより「厳周伝新陰流」について述べたあと、新陰流の真価や極意にあらゆる角度から迫っています。長年の研究の結果、柳生連也が残した『新陰流兵法目録』に著者は一つの結論を見いだしました。新陰流の主要な伝書も収録した、著者の集大成となる書です。新陰流についてまったく知識のない読者にも、基本的な事柄からその奥深いところまで理解していただける一冊になっています。
※本書はムック『柳生新陰流 歴史・思想・技・身体』(2017年・スキージャーナル/絶版)を原本とし、加筆・修正したものです。
※本書はamazonでお買い求め下さい。一般書店では販売していません。